危機に備えるあたらしいコンタクトセンターの形、分散型コールセンターソリューション -後編-

分散型2_tobira.png前回、「危機に備えるあたらしいコンタクトセンターの形、分散型コールセンターソリューション -前編-」では、コンタクトセンターにおける継続性の重要度を再確認し、継続性を確保する分散コールセンターのコンセプトと強みについてご紹介しました。

今回は、分散コールセンターの構築や運用における重要なポイントについて解説し、より具体的なイメージを持っていただきたいと考えています。

1. 多拠点化にともなう管理者(SV)の配置

ご存知の通り、コンタクトセンター運営には様々な管理業務の遂行が必要となります。また、管理業務の質がセンター運営の質に直結するといっても過言ではありません。センターが一定以上の規模であれば、SVも相応の人数で組織されているため、品質管理・アサイン調整・レポーティングなどの役割を各SVに分担することで、SV個々においてはある程度限定された領域の管理業務に特化することが可能になります。しかしながら、小規模のコンタクトセンターでは少数もしくは単独のSVが全ての管理業務を一任されることが多く、SVに負荷がかかりやすくなり、運営の安定性や質が低下するリスクが高まります。それぞれの拠点が小規模である分散コールセンターについても、同じ懸念を持たれるのではないでしょうか。

規模が小さいほどSVへの要求が高くなり、運営リスクが生じる可能性があるというこの問題に対し、分散コールセンターソリューションでは体制の工夫による解決案を用意しています。1カ所あたり10~20席規模の各拠点に1名以上の管理者(SV・ASV)が常時在席することは前回もご説明しましたが、それとは別に各拠点を統括管理するチーム(マネジメントチーム)を設置し、円滑な運営・管理を実現する構造とすることが分散コールセンターの特徴の一つです。

分散型コールセンターソリューション_2-1.jpg 前述の品質管理・アサイン調整・レポーティングなどはマネジメントチームで集約し、オペレーションチームのSVは拠点ごとのリアルタイムマネジメントやオペレーターのケアに注力します。このようにオペレーションチームのSVが管理する範囲を限定することで、SVに求められるスキル要求を緩和するとともに、オペレーターマネジメントに強みを持つ人材のアサイン・育成に集中できるメリットも生まれます。

2. 複数拠点間の格差是正・標準化の取り組み

一般的に複数拠点で運営する場合、パフォーマンスのバラツキや、運用の属拠点化が問題となることがあります。拠点ごとに管理者が異なると、業務ルールやナレッジ・ノウハウが独自に形成され、センター運営のやり方・精度にバラツキが生じやすくなります。これは、新人教育・品質管理・情報共有などの各プロセスで起こり、結果的にセンターの運営品質が拠点ごとに異なってくる可能性があります。

こういった問題を抑制するため、分散コールセンターでは、弊社が培ってきたノウハウと最新テクノロジーをプロセスごとに適用することを前提に、構築・運営を進めていくことになります。 新人教育においては、座学で知識を習得後、模擬対応(ロールプレイング)や実対応(OJT)に移行するカリキュラムが一般的ですが、ステップごとに適した手法を選択することが重要ですので、例えば、初期の知識習得はマネジメントチームが担当し、WEBカメラによるリモート座学とeラーニングを組み合わせて実施します。その後、オペレーションチームでのロールプレイングやOJTによる実践を経て、最終的にマネジメントチームが遠隔モニタリングによるデビュー判断を行います。このようにテクノロジーを活用し、拠点共通的な教育・育成プロセスを構築することで、着台基準のバラツキを抑制し、新人の応対品質を標準化します。

また、品質管理については、マネジメントチームが主幹となって推進します。分散コールセンターは、PBXやCRMなどの各システムにおいて、クラウドサービスの活用を前提とした運営モデルとなります。クラウド型の全通話録音システムがあれば、どの拠点のどの処理も遠隔でのモニタリングが可能です。オペレーターにはWEBカメラを用いて改善ポイントをフィードバックし、オペレーションチームの管理者とオペレーターが二人三脚でスキルアップに取り組みます。これをPDCAサイクルで運用することで、拠点間のカリブレーションを不要とし、統一された基準で改善活動が可能になります。

応対品質だけではなく、接続性品質や生産性品質なども同様です。マネジメントチームがクラウド型のPBXやCRMに蓄積された各種データをもとに傾向を分析し、要員配置・呼量削減などの対策を立案、各拠点およびクライアントと調整の上、パフォーマンスの最大化を図ります。

複数拠点間の情報共有というテーマにおいては、伝言ゲーム的な情報の取り扱いが進むことによる伝達の精度や速度の低下、質の劣化をいかに抑制するかが課題となります。分散コールセンターでは、情報の種類によりますが、可能な限りマネジメントチームからオペレーターへの直接周知を第一優先とします。これにはナレッジ系・コミュニケーション系の各種ツールを活用します。例えば、弊社のCRM製品であるInspirXには「メガホンメッセージ」という機能があります。これは任意の範囲に情報をポップアップさせる機能で、クレーム発生やリアルタイムパフォーマンスなど、緊急性の高い情報の一斉周知に有効です。ほかにもFAQ・掲示板・チャットなど、ロケーションを選ばずWEBベースで使用できるツールを適材適所で選択していきます。

ただし、コミュニケーションのチャネルは多様であればよいというものではなく、無計画なツールの導入によって情報が錯綜する事態は珍しくありません。チャネルごとに目的とルールを明確にし、情報をコントロールしやすくするためのシンプルな動線設計が求められます。

分散型コールセンターソリューション_2-2.jpg このように、拠点間のバラツキを生みやすいプロセスにおいては、IT技術を活用しながらマネジメントチームが統括し、各拠点と有機的に連携することで、単拠点センター同等の過不足なくバランスのとれた管理の仕組みを作り出す点が、分散コールセンターモデルの要点の一つだと考えます。

3. 変化に対して柔軟に順応できる運営モデルの重要性

前回冒頭で触れたように、採用難の深刻化、BCPの重要性の高まり、IT技術の進化については、今後も加速していくと予想されます。さらには、例えば現在の新型コロナウイルス感染症の流行など、未知のなにかしらのインパクトにより、予測不能な影響が生じる可能性もゼロではありません。これまでもその時々の社会情勢や市場ニーズ、技術革新などに合わせてコンタクトセンターが変化してきたように、この先の将来においても最適な運営スタイルは常に一定ではないと考えます。大型拠点を中心にサービスを展開するBPO事業者がコンタクトセンターを構築・拡大する場合、通常は既存拠点の空席状況によって運営方法やロケーションの選択肢が制限されてしまいます。一方で、個々の拠点が小規模である分散型に対しては、そもそも拡大が可能なのか、といった懸念があるかもしれません。

しかし、分散コールセンターでは拠点自体を複数運営するものの、情報やインフラをクラウドに集約するなど、各拠点の物理的な設備については極力投資を抑えることで、フレキシビリティに優れた設計となっています。また、個々の拠点が小規模であるからこそ、業務内容や業務量に応じてどのように拡大させるか、柔軟な調整が可能となります。つまり、分散コールセンターは、その業務にとってその時点で最も適した場所を選定できる運営モデルでもあります。さらには、運営形態の面でも、分散コールセンターを定型的に運営するだけでなく、様々なバリエーションが考えられます。

バリエーションの一つとして考えられるのが、分散型と在宅型を組み合わせた形態です。前回の記事で在宅型コンタクトセンターの課題について取り上げましたが、これは決して在宅型を否定しているわけではありません。課題をクリアできるのであればむしろ積極的に検討すべきだと考えます。例えば、以下のように分散型とのハイブリッド運営を選択肢に含めることで、より実現性の高い検討が可能となります。
・環境・スキルなどの条件を満たしたオペレーターのみを在宅勤務とし、分散型と並行で運営する
・平常時は分散型で運営し、緊急時に在宅型に移行する
・新設時は分散型で運営し、安定化したら在宅型に移行する
繰り返しになりますが、拠点型と在宅型それぞれの得意・不得意な領域を明確化し、IT技術によって解決できる問題を十分把握することが重要です。

4. まとめ

・コンタクトセンターの運営課題として、採用難対策やBCP対応の重要性が高まってきている
・現在の潮流として在宅化が注目されているが、コンタクトセンターの在宅化にはクリアすべき問題が多いのも事実
・採用難やBCPニーズに対応し、在宅化の問題をクリアする運営モデルとして分散コールセンターを提案
・分散化にともなう管理者アサインの懸念については、解決策の一例として、一部管理機能を集約することで対応
・拠点間で格差・バラツキが生じる懸念については、同じく管理機能の集約とIT技術を活用することで対応
・将来的な業務量増減や社会情勢変化の懸念についても、高い柔軟性により、状況に応じたスタイルでの運営が可能


サービスのデジタル化・サブスクリプション化が加速している昨今の状況もあり、引き続き非対面型の顧客接点の重要性は高まっていく見込みです。その一方で、採用面や事業継続面に関する運営課題の難易度はさらに上昇し、従来型の運営方式が限界に達する可能性も考えられます。これにより、今後のコンタクトセンターは、全機能を単拠点に集約するのではなく、機能を分解・再構成の上、必要に応じて集中型・分散型・在宅型を組み合わせる運営モデルがスタンダードになっていくと我々は想定しています。

前回・今回の記事を通して、弊社が提供する「分散コールセンターソリューション」のコンセプトや運営のイメージは多少なりともご理解いただけたのではないかと思います。しかしながら、「どんな業種でも導入できるのか」「どのレベルの検討段階で相談すればよいのか」「どのくらいコストが発生するのか」など、新たな疑問が生まれることもあったのではないでしょうか。分散型と一言で言っても、業種や業務内容によって最適な形は異なります。ご興味がお持ちいただけましたら、どのような検討段階であっても、お気軽にお問い合わせください。事業・サービスの種類や運営ニーズなどに応じて、最適な運営の構造やあり方を皆様と共に検討させていただきます。

今後も弊社では本サービスに限らず、これからの時代に適したあたらしいコンタクトセンターの運営と研究、社会情勢の検討を通して、価値あるサービスを開発・提供し、よりよい顧客接点と就業機会の創出に貢献して参ります。ご期待いただけますと幸いです。

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執筆者紹介

オペレーションコンサルティング部
コンサルタント
栗原 健介(くりはら けんすけ)
2019年に中途で入社。前職よりコンタクトセンター運営をはじめとした顧客接点領域全般におけるクライアント支援に従事。これまで「CS向上に向けたVOC活用サイクルの構築」「CRM高度化に向けたITソリューションの活用強化」等をテーマとしたプロジェクトを担当。また事業統括部門においてプロジェクト横断的な品質改善・組織強化を推進する役割を担う。現在は、BPO領域のサービス開発および関東地区でのコンサルティング案件に携わっている。

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